*2話*







夜が明ける。

まだ淡い朝日が顔にあたり目が覚めた。



「 んん? 」



いつもなら当たる事の無い光にうめき声を上げ、体を起こす。

いつもと違う視界に首をかしげ、寝起きでぼんやりした頭で部屋を見回した。

ベッドにまで目をやって、やっと昨夜拾った子供のことを思い出す。



ああ、そうだった。



昨日道で拾った子供は、家に辿り着いて遅い夕食を取った後も目を覚ます事は無かった。

あの不可思議な体重も変わる事は無く、一緒に寝ると消えてしまいそうだった。

仕方が無いので子供にベッドを譲り、自分は床で寝たのだ。

未だ眠ったままの子供の様子を見る為、少年の腕をとった時、手に腕の重みを感じた。

昨日の出来事が夢幻であったかのように、ちゃんと肉体の重さがある。



「・・・・・・どういうことだ?」



思わず漏れた言葉に、部屋の隅の寝床で丸まっていたラピードが反応するが、何でもないことが分かると、

何事もなかったように眠りへと戻っていった。

それを確認する事もなく、ユーリは子供の脈を確認するが異常は見られない。

むしろ速かった脈が正常に戻っていた。

専門的な知識を持たない自分にできることは限られている。

このままずっと眠ったままだったら後で医者を呼ぼうと、方向性が決まった所で本格的に起きる事にした。

朝一というわけではないが、頼まれ事をされているのを思い出したのだ。

俺は便利屋じゃないんだけどな。

心の中でぼやきつつ、



「ラピード、俺がいない間に何かあったら頼んだぞ。一応宿屋の女将さんには話をしとくから」



言いながら、ユーリが部屋から出て行く。

とりあえず自分が出かけている時に、少年が目を覚ました時ようのメモの準備をしておかなければ。

声をかけられたラピードは眠そうにあくびをした後、了承したとでも言うかのように、ワフっと一声鳴いた。









頼まれた事も無事に片付き家へと向かう途中、果物屋が目に入った。

いつもならそのまま通り過ぎるところだが、今日はなんとなく足が止まる。

あの子供は食べるだろうか。

何故そう思ったのかは分からない。

ただそのとき頭をよぎったのはそんな事だった。

果物屋の親父にからかわれつつも、真っ赤なリンゴを数個買った。

嫌いでないといいんだが・・・・・・

まぁ嫌いといっても無理矢理食わせるけどな。

そんな黒い事を思いつつ、ラピードが自分を呼びにこなかった事について考える。

もしかしてまだ眠ったままなのだろうか。

ユーリは空に上りきった太陽を見上げた。

家へと向かう足取りが心なしか早くなった。





家にしている部屋に入る前に、宿屋の女将に少年の事を尋ねたが、未だに眠り続けているらしい。

とりあえず買ってきたリンゴを置いてから医者を呼びにいこうと、部屋のドアに手をかけた時、

中からガタタンと大きな音が聞こえた。



「どうしたっ!?」



勢いよく扉を開き、部屋に飛び込む。

しかし部屋の中に異常は見られず、ただベッドの上にいる赤毛の少年が、「へ?」と間の抜けた

声を上げてこちらを見ているだけだった。

どうやら今の大きな音は少年が立てたものだったようだ。

知らず知らずの内に入っていた肩の力が抜ける。



「目が覚めたみたいだな、気分はどうだ?お前ずっと眠ったままだったんだぞ 」



抱えていたリンゴを手近なテーブルに乗せて少年に声をかけた。

少年は綺麗な翠色の瞳で、テーブルに向かっていくユーリの姿を追っていた。



「どうした?」



まだ間の抜けたぽかんとした顔でだったが、ユーリの様子や言葉の内容で状況を何となく悟ったのか、

口の中で小さくありがとう、と呟いた。



「別に礼なんかいらねえよ。特に何にもしてないからな」



言いながら肩をすくめたユーリに、少年は戸惑ったような視線を送った。

状況はなんとなく把握したが、何故この状況に置かれているのかが分かっていないようだ。



「それよりなんであんな所に倒れてたんだ?」

「あんな所?」



問われた意味が理解できなかったのか、少年は訝しげな顔でオウム返しに問い返してくる。



「お前下町の路地裏に倒れてたんだよ。その辺の記憶はあるのか?」

「・・・下町?・・・路地裏?」



補足するように言われた言葉に余計に戸惑ったような顔をする少年。

どうやら混乱してきたのか、なかなか面白い表情になっている。



「路地裏だって?・・・・・栄光の大地<エルドラント>にいたはずなのに・・・

・・・それに俺は・・・・・のに・・・・・」



何か口の中でごにょごにょ呟き、しまいには自分の両手をじっと見つめ始めてしまった少年に、

ユーリは溜息をついた。

それに反応したのか、少年の肩がビクッとふるえる。

なんか色々わけありっぽそうだな。

少年の様子を見て、この話題を追求する事を諦める。

少年の登場シーンに気になる事や聞きたい事はいっぱいあるが、誰しも聞かれたくない事の一つや二つはあるだろう。



「ま、話したくないんだったらいいさ。とりあえず、名前はなんていうんだ? それぐらいなら

答えられるだろう?」



あっさりと問いかけを放棄したユーリに少年はきょとんとした表情を浮かべた後、苦笑にも似た笑みを浮かべ、



「俺はルーク。ルーク・フォン・ファブレ。

別に話したくないわけじゃなくて、今の状況が自分でも把握しきれてないだけなんだ」



少年―――ルークは子供にしてはしっかりとした口調で答えた。



「ふ〜ん、そ。俺はユーリ・ローウェル。ユーリって呼んでくれ」



自己紹介を返しながらユーリはルークの頭を撫でる。

すると、ルークの目がびっくりしたように見開かれた。



「ん?ああ悪い。頭触られるの嫌だったか?」

「え、あ、嫌だったわけじゃなくて、ただびっくりしただけだよ」



撫でていた腕を引っ込めたユーリに、慌てて否定の言葉を返す。

ただ、びっくりしただけなのだ。

自然に頭を撫でられてこんな幼い子供に向けるような優しさや動作を、何のためらいもなく向けられて、

びっくりしただけなのだ。

胸がほっこりと温かくなる。

もしかしたらこれは、死んだ自分が見ている夢なのだろうか。

自分の体が消えていったのを鮮明に覚えている。

夢でないなら、こんな優しさを向けられるはずがない。

そんな風に思ってしまったルークを現実に引き戻したのは、頬に走った痛みだった。



「いっ、いひゃいいひゃいっ!!・・・・っ・・何してんだよ!!!」



両方向に向かって引っ張られていた頬をユーリの手から脱出させ、真っ赤になった頬を押えながら、

痛みで潤んだ目でつねった張本人を睨みつけ、噛み付くように怒鳴る。

しかし、姿が7歳児なので凄みは全く無く、逆に微笑ましく見える。

ルークの頬をリンゴのように真っ赤にさせた犯人は、ケラケラと楽しそうに笑って、



「いや〜〜、わりぃわりぃ。抓り易そうな頬が無防備に目の前にあったもんで、つい」



謝ってはいるが、いたずらっ子のように笑っている目が本当に謝っているわけじゃない事を伝えてくる。



「抓り易そうな頬ってなんだよ!いくら無防備だったからって抓っていいわけないだろうっ!」



眉尻を吊り上げて、烈火のごとく怒るルークに、軽い調子で謝りつつユーリはホッとする。

頭を撫でた後のルークは、どこか死んだ人間が浮かべるような、悲しげなここでないどこか遠くを

見るような目をしていた。

子供が浮かべていいような目ではなかった。

その目が嫌で、それをどうにか止めさせたくて頬を抓ったのだが、今度は怒りをなだめるのが大変だ。

だが、さっきの表情よりかは数百倍もマシだ。

怒りを通り越して拗ね始めた子供に苦笑しながら、ユーリはそう思った。







『何笑ってんだよ!』

『いや、可愛いなと思って』(なでなで)

『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜//////////』












ルークinヴェスペリア第2話をお送りしました。

今回は自己紹介編です。

未だにユーリのキャラが掴みきれません。愛はあるはずなのに・・・・
そして、ラピードが空気です。
忘れているわけじゃないんですが、こう、どの辺で会話に介入させるかがつかめなくて・・・・ラピード難しいよ!
ルークはユーリに撫でられて戸惑い気味ですね。
実年齢は7歳だけど、外見年齢は+10歳だったから、歳相応の扱いなんて受けた事無かっただろうな、
と思ってこんな反応。
ルークを実年齢の姿にさせたのも、ルークに普通の子と同じ幸せをという願望からですしね。
名付けてルーク幸せ計画(爆)
本編が始まったら、他のアビスキャラも出したいなぁと思いつつ、いまだ出会い編を抜け出せず・・・・・orz
続きはのんびり待ってください。











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