*1話*






風を取り込むため開かれた大きな窓。

鏡の前に立ち、自分の身なりを確認していたルークは、風に乗って運ばれてきた淡い

花の香りに顔をほころばせた。

いつも着ないような、豪奢で格式ばった窮屈に感じる格好も、花の香りで少しは楽に

感じられた。

叔父の国王陛下が正気中和の功績で、勲章と爵位を下さるという。

嬉しくないわけではないけれど、あれは自分ひとりがやったわけではなく、死んで

いったレプリカ達と、アッシュの協力があったから出来たことだ。

断る理由はないしもらえて嬉しい気持ちがないわけではないのだが、罪悪感や後ろめ

たさが全くないと言ったら嘘になる。

そんな複雑な心境を反映するかのように、知らず知らずの内に眉がよって眉間に皺が

出来る。

まるで眉間に皺が標準装備のアッシュのようだ。

しかし、常時不機嫌そうなアッシュの顔というには、その顔は少々卑屈に見える。

思わずため息をついたとき、吹き込んできた風に乗って花びらが飛んできた。

宙を舞うそれを掴もうと手を伸ばした時、見えるはずのない手の向こう側が透けて見

えた。



「!!!!」



反射的にその手を抱え込む。

心臓の鼓動が跳ね上がり、背中を冷や汗が流れ呼吸が速くなる。

大丈夫、まだ大丈夫だ。

そう自分に言い聞かせ、抱え込んでいた手を恐る恐る目の前にかざす。

先程の事が嘘のように、手はちゃんとあった。

安堵のため息が漏れる。

残された時間はそう長くない事は分かっていた。

体を構成している音素(フォニム)の結合が日に日に弱くなってきているのか、乖離し

かけて透ける等の現象が前に比べて増えてきている。

後どれくらい、自分は生きていられるのだろうか。

考えても仕方のないことだと分かっているのだが、やはり考えてしまう。

しかし、こうやってずっと手を見続けているわけにも行かず、服装の最終確認をしよ

うと顔を上げた時、ルークは広い甲板のど真ん中に立っていた。



「・・・・・・・」



あまりの衝撃に声も出ない。

何回も瞬きをして、目をこする。

しかし目の前の景色は変わらない。

何が起きたのか理解できずにただただ立ち尽くす。

自分は確かに屋敷の自室にいたはずなのに・・・・・・

今の状況を理解しようと頑張るが、失敗に終わる。

目の前に広がる空と雲は、夢幻というには現実感がありすぎた。

吹き付けてくる風の臭いも、嗅ぎなれた屋敷のものではなく、今自分がどこか違う所

にいることを伝えてくる。

とにかく落ち着こうと息を大きく吸ったとき、視界の端に何かとんでもないものが

映ったような気がした。

その正体を確かめようと、恐る恐る空を見上げる。



「え!?」



そこにあったものに驚愕した。

みた事もないような巨大な魔物がそこにはいた。

とっさに剣を抜こうと腰に手をやるが、あるはずの剣がそこにはなく何も掴めなかった。



「剣が!!・・・・・・・って、服着替えるからってサイドテーブルに置いたんだ

った・・・・・・」



身を守る為の剣がない事に焦りの声を上げたルークだったが、すぐにその理由に思い

至り、がっくりと肩を落とした。

身を守る為の武器がないことが分かったわけだが、何も掴めなかったことで逆に冷静

になれたのか、魔物の様子をみるだけの気持ちの余裕が生まれた。

視線をそのままに様子を観察してみるが、そこにいるだけで襲ってくるような様子は

見受けられない。

不思議に思って観察続けると、その魔物がルークの乗っている船のマスト等を咥えて

いる事に気付く。

なんで魔物が船を咥えてるんだ?

その不自然さに首をかしげ、視線を元に戻すと甲板の端まで移動する。



「え?!」



目の前に広がる景色に息を呑んだ。

眼下に広がる山々、何処までも続いているような地平線。

宙を浮いている船。



「浮い・・・てる?・・・・え?・・・・ええええええええっ!?」



思わずルークは船の縁に張り付いて船の下を見ようと身を乗り出す。

身を乗り出しすぎて、船から落ちそうになる。



「わたたたたっ!!」



なんとも間の抜けた声を上げながら、落ちないようにもがいていると、襟首をつかま

れた感覚と同時に一気に後ろに引き戻された。

そのおかげで何とか落ちずにすんだわけだが、心臓が口から飛び出しそうなほどバク

バクいっている。



「は〜〜〜、落ちるかと思った。助かったよありがと・・・う・・・・・」



安堵のため息をつきながら、助けてくれた人に礼を言おうと振り返ると、険しい視線

にぶつかった。

自然言葉が尻すぼみになる。

黒い髪に黒い服装、全身黒づくめの男がそこにいて、女性と見まごうばかりに整った

顔には、警戒と不審の色が浮かんでいた。















はい、始めてしまいました。別バージョンのルークinヴェスペリア。

サイトの更新がままならない上に、もう1つの方も全然進んでいないというのに、手を出すという無計画っぷり。
だってー、子供のルークだけじゃなくてそのままの姿のままバージョンも書きたかったんだもん。
と、いう願望の元に書いてしまいました。
そして書いたからには載せたいという訳です。
もう1つの方に対して、こっちは気が向いたときに書くので、亀を通り越してナメクジ更新になると思われます。
それでもいいという方は、気長にお待ちください。



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