*満開のハルルの街にて*
1.
ひらひらと宙を舞い踊る花びら。
雪のように次から次へと降り注いでくるそれは人を幻想的な世界へといざなう。
ユーリ達「凛々の明星」は、花の町ハルルにやってきていた。
今最大の見頃を迎えている、ハルルの樹を見ようと町は人で溢れていた。
「すげ〜。前に来たときも凄かったけど、なんか迫力が増してねぇ?」
「とても幻想的で、うっとりしてしまいます〜」
町に入ってすぐ目の前に広がる光景に、思わず足を止め感嘆の声を上げたルークと同じように足を
止めたエステルは、ほほを紅色に染めうっとりと目の前の景色にため息を漏らす。
後ろを歩いていたユーリは、町の入り口で立ち止まった二人の横に並び、同じようにハルルの樹を
見上げ、
「幻想的なのはいいけど降ってくる花びらで前は見えづらいし、人も凄くてうっとしくもあるな」
現実的なことを言って水をさす。
「もう、ユーリったらそういう事言って。少しぐらいこの綺麗で幻想的な景色に浸らせてくれたっていい
じゃないですか」
当然といえば当然ともいえるエステルの抗議に肩をすくめただけで、ユーリは水をさされても樹を見
上げ続けるルークの方を向く。
フォローする気配などこれっぽっちもないユーリにエステルはふくれるが、されるはずのなかったフォ
ローは別の所からやってきた。
「幻想的で綺麗な景色に酔いたいのは分かるけど、先に宿についてからにしない?おっさんもうへと
へとよ」
「先に行って宿を取ってくれてるカロルたちもいるわけだし、人心地ついてからのほうがもっと楽しめる
と思うのだけど、どうかしら」
肩をたたかれエステルが振り返ると、ふざけたような調子でレイヴンが、その後を続けるようにジュディ
スがにっこり微笑みながら言い、促がすように背を押された。
振り返らないままその様子を肩越しに見ていたユーリは、顔全体で感動を表しているルークの肩に手
を置いた。
ずっと樹を見上げていたルークが視線をユーリに移す。
「ルークもそろそろ行こうぜ。今日は泊っていくわけだし、このままだと置いていかれるぜ」
いいながら、ユーリは宿に向かい始めているジュディス達を指さすと、ようやくルークは自分が置いてい
かれそうになっている事に気付いた。
「ごめん。つい見惚れちゃってた」
「別に見惚れるのは構わないさ。その気持ちが分からんでもないしな」
「ほら行くぞ」と促がすようにユーリは言い、ルークの背を軽く2回叩くとさっさとジュディス達の後を追い
始める。
置いていかれたルークはその後を慌てて追いかけた。
2.
ルークたちが宿につくと、入り口にはカロルやリタの他にフレンの姿があった。
「フレン。フレンじゃないですか」
その姿を捉えたエステルが、名前を呼びながら駆け寄った。
「こんにちはエステリーゼ様。お久しぶりです」
「こんな所で会うなんて奇遇です」
そう言ってはしゃぐエステル。
一緒に歩いていたジュディスとレイヴンはそんなエステルに苦笑しつつも、歩みの速度を速めることもなく
そのままカロル達の下に向かう。
「もー、みんな遅いよ」
「全くよ、どんだけ回り道したらこんなに時間がかかるのよ」
宿を取る為に先にハルルに向かったカロル達は、予想以上に待たされて少々ご立腹のようだった。
「回り道は、そうね・・・したかもしれないわね」
「あんな回り道、おっさんもうごめんよ。あれは老体には厳しいって」
「?」
二人して遠い目をした事に、カロルは首をかしげる。
回り道してなんでこんな反応を返してくるんだろう?
首をかしげているカロルの横で、肯定されたリタは眉を吊り上げて何か言おうと口を開いたが、それは声に
なる前に呼びかけてくるルークの声にかき消された。
「リタ〜〜〜〜、カロル〜〜〜〜」
自分たちの名前を呼びながら、小さい体を弾ませてこちらに駆け寄ってくるルークの姿が見えた。
その後ろには、苦笑したような顔をしているユーリの姿もある。
「足元見なさい。転ぶわよ」
言葉を遮られたからというわけではないだろうが、少々不機嫌そうながらも犬のようにきらきらした目でこ
ちらに走ってくるルークに、注意の言葉をかけた。
―――が、その言葉は少々遅かったようで、言葉を言い切られる前に落ちている花びらに足を滑らせて、顔
面から地面に激突しそうになる。
みんながルークを支えようと反射的に手を出しそうになるが、その前に後ろを歩いていたユーリに襟首をつ
かまれ、地面との熱烈キスは避けられた。
「ごめん、ありがとう」
襟首をもたれたままの体勢で振り返って礼を言ってくるルークに、ユーリはため息を一つつくと、そのまま
持ち上げて腕に抱き上げられた。
「わわっ、ユーリ下ろしてくれよ。歩けるから、普通に歩けるから」
「また転ばれても困る。それをフォローするのは面倒臭い、後ちょっとの距離なんだから甘えとけ」
当たり前のように抱かれて、慌てるルークをよそにそのままゆっくりと宿の前に向かう。
ルークが転ばずにすんで安堵していた面々は、ルークを抱き上げたユーリに羨望のまなざしを送ってくる。
みんな小さくて可愛いルークを抱っこしたいのだ。
絶好の機会を物にしたユーリに、向かってくる視線は少々鋭い。
そんな言葉よりも物を言っている視線にユーリが苦笑していると、
「恥ずかしいんだよ!もう子供じゃないんだから」
抱き上げられている事に耐えられなくなったルークが、ブスっとして文句を言ってくる。
言葉と態度が矛盾しているルークに、微笑ましいものを感じながら、
「そういう事言っているうちは、まだ当分子供だな。ゆっくり育てよ。みんなきっとそう願ってるぞ」
そう言って笑ってくるユーリに、何を根拠に言ってるんだと更にルークが言葉を重ねようとした時だった。
「ユーリ!ずるいです」
拗ねたようなエステルの声が驚くほど近くから聞こえた。
驚いて振り返ったルークは、やり取りをしている間に宿まで辿り着いていた事に今気付いた。
「私だってルークを抱っこしたいのに!」
頬を膨らませ、拗ねたような顔をしてエステルが見上げてきていた。
その後ろに目をやると、苦笑を浮かべたフレンの姿があった。
ルークが見ていることに気付くと、親しみのこもった笑みに変わる。
「よう、フレンじゃねえか。こんな所で会うなんて、何してんだ?」
宿の前に着いた時点で気付いていただろうに、今初めて気付いたかのように言ってくるユーリ。
エステルの主張が聞こえなかったフリをしたいのが見え見えである。
ルークも抱き人形にされるのが嫌なのか、エステルの言葉が聞こえなかったかのようにそっぽを向いて
いる。
そんな二人にフレンは少し呆れたような顔をしたが、ユーリの目が絶対に話を戻すなと訴えていた為、
苦笑しながらも話をそらす事に協力する事にした。
「任務で近くまで来たんだよ。今日はハルルで宿営する事になっていて、明日の朝まで自由行動してい
いという事になってね。せっかくだからハルルの樹を見に来たんだよ」
「僕とリタが宿から出てきたところでばったり会ったんだよ」
事情を説明し終えたフレンの後を続けるように、カロルが口を挟んできた。
「それで3人とも宿の前にいたんですね」
「うん、そうなんだ。この時期にハルルで会ったのも何かの縁だからって、一緒に花見をしないかって
話をしてたんだよ」
「素敵です!」
カロルの話に目をキラキラさせてエステルは声を上げた。
一緒に花見をするというのがとても魅力的なことであったようで、ルークの事は頭から抜けたようで、
リタやフレン、ジュディスなどに花見をしようと声をかけすっかり乗り気である。
話をそらす事に成功した事にルークは安堵のため息をつき、また話が浮上しないように下ろすようにユ
ーリの腕を軽く叩いた。
すでに宿の前に到着していた事もあり、すぐに腕から下ろしてくれた。
足の裏に地面の感触を感じ、一息ついたルークの頭に手が乗せられる。
振り返るといつの間に近付いてきていたのかレイヴンがいた。
「災難だったわねルー君」
「レイヴン。いつの間に来てたんだ?さっきまでエステルの隣にいた気がしたんだけど」
「エステルにお菓子を作ってくれってねだられてなかったか?」
「逃げてきたのよ。おっさんもうへとへとなのに、これ以上の労働するのは嫌なの」
プー、と拗ねたように言うレイヴン。
彼が女性の頼みを断るのは珍しい。
態度には出ていないが、本当に疲れているのだろう。
その原因に心当たりが大いにあるというより、その原因を作った張本人であるルークは申し訳なさそう
に眉を寄せた。
見るからにしょぼんとしてしまったルークに、レイヴンは慌てた。
ルークの横に立つユーリの責めるような視線が痛い。
「別にルー君を責めてるわけじゃないのよ。ただ料理するのが嫌なだけでルー君にそんな顔させたかっ
たわけじゃないのよ、本当だって!」
ルークの頭から手を離し、体の前で振りながら慌ててフォローするが全く効果がないようで、以前ルー
クはしょぼんとしたままだ。
ユーリの視線がさらに鋭さを増す。
「ルー君、お願いだから機嫌直してっ。さっきから青年の視線が痛いのよ!」
わたわたと本気で慌てるレイヴン。
しょぼんとしたままながらもその言葉の内容にルークは顔を上げ、首をかしげた。
ユーリはレイヴンをもうひと睨みした後、ルークの頭に手を乗せて乱暴に撫でた。
「うわっ・・・・・ちょ、ユーリ。髪の毛がぼさぼさになるってば」
その豪快な撫でっぷりで髪をぼさぼさにされたルークは慌ててユーリの手を止めようと奮闘するが、ユ
ーリは笑いながら巧みに避けてなかなか手を捕まえられない。
おかげでしょぼんとしたものはなくなったが、花見の段取りを決めだしていたエステルに気付かれ、今
度は頭を撫でたいという主張に他のメンバーも同調した為に、ルークが逃走するという事態が起きた。
「ルーク、待ってください。頭を撫でるくらい良いじゃないですか!」
「髪がぐしゃぐしゃになるから嫌だってば」
「ユーリが撫でたんだから、もう何回撫でられても同じでしょ」
「どうゆう理屈だよ、それ」
「もうぐちゃぐちゃになってるんだから、関係ないって事じゃないかしら」
「ルーク、そっちは行き止まりだよ。ああっ!!ちょっと、そっちいっちゃ危ないってば!」
そんなやり取りが響いて宿から遠ざかっていく。
疲れているハズなのに元気いっぱいなメンバーに、ユーリは呆れたようにため息をつくと、真っ先に逃
げ出した赤毛を捕獲する為に、声の響いてくる方に走り出した。
「・・・・・・おっさん、さっきルー君の頭撫でた事隠しといた方が身のためな気がするわ」
先程ルークの頭に乗せていた手を目の前に上げつつ、レイヴンは若干の身の危険を感じていた。
同じように取り残された格好となったフレンは、聞こえてしまったレイヴンの言葉に苦笑をこぼしつつ
も、何も言わずにレイヴンの肩に手を置いた。
3.
空を覆い尽くすような満天の星空。
昼間とは対照的に静かでひとけのないハルルの樹。
夜になっても尚降り注ぐ花びら。
星明かりに反射して白く光りながら舞い落ちるそれは、昼に見られるものとはまた違った美しさがあった。
そんなひらひらと舞い落ちる花びらの中心地、ハルルの樹の根元にルークはいた。
淡く光る雪が降ってきているような幻想的な風景を見ながら、昼間の事を思い出していた。
頭を撫でたがるエステル達から逃げたルークは、ユーリによって救出された後結局みんなに撫でられ、ぐ
しゃぐしゃになってしまった髪に拗ねて部屋に引っ込んでしまった。
本当に拗ねたわけではなく、みんなから注がれる愛情に照れ臭くて素直な反応が出来なかったのだ。
自分の取った子供子供した態度に反省をして、髪をなおし終えた後みんなに謝ろうとルークが部屋を出る
と、ユーリが部屋の外で待っていて、謝る間もなくハルルの樹の下に連れて行かれた。
そこには敷かれたシートの上にエステルとラピードがいて、こちらを見て笑っていた。
不思議に思って首をかしげると、これから花見をするのだと言ってルークをシートの上に座らせられた。
しばらく待ってみると、姿の見えなかった他のみんなが食べ物や飲み物を持ってきて、花見が始まった。
途中フレンの料理が混じっている事が判明して、そうとは知らずに食べてしまったカロルが倒れるといった
事件があったが、最後はみんな笑っていた。
祭りの後の静けさとはこの事をいうのだろうかと、そんなことを考えていたルークは、坂の方から誰かが来
るのに気付いた。
こんな夜中に誰だろうと、首をかしげたルークだったが、星明りに照らされて見えてきた顔に、うっすらと笑
いをこぼした。
「こんな遅くにこんな場所で何やってるんだ?」
坂を登りきってこちらに向かってきていたのはユーリであった。
まっすぐこちらに向かって歩いてくる表情は、どこか呆れたようなものだった。
「星を見てた」
心配かけてしまったことに申し訳なさを感じたルークではあったが、特にそれを表情に出す事はなく、うっ
すらと浮かべた笑みをそのままに静かに答えて空を見上げた。
「星ね・・・・」
悪びれる様子もないルークに、ユーリは苦笑を浮かべ肩をすくめるとルークの隣に並ぶように腰をおろす。
自然と視線は上がり、空に広がる星の海が瞳に映る。
その光の海に振るようにひらひら花びらが舞っている。
「・・・・・本当に綺麗だよな」
隣にユーリが座った事に気付いているのだろうに、しかしルークは視線を星空から下ろす事はなく、ただ
呟くようにいった。
どこか感慨深げな響きのある声に、ユーリは横目でルークの顔を窺った。
ルークは幸せそうな、それでいて寂しそうな顔をしていた。
自分のいた世界のことでも思い出しているのだろうか。
あまり見たい表情ではなかったが景色に浸っているルークの邪魔をするのは忍びなく、特に何を言うわけ
でもなくユーリは静かに視線を反らした。
しばらくの間無言で空を見上げていた二人。
その心地よい沈黙を壊さないようになのか、ルークは小さく呟いた。
「また、みんなで花見をしたり、こうやって空を見上げられると良いな」
「できるさ」
ユーリは間髪いれずに答えた。
空に向けられていたルークの視線がユーリを向く。
「お前はここにいるんだから、機会なんていくらでも作れるだろ。できると良いじゃなくて、絶対にやろうぜ」
言いながらユーリはルークの頭を撫でた。
労わるようなそれをルークは素直に受け入れ、花びらの降り積もった地面を見つめる。
「・・・・そうだね。俺はここにいるんだよな。ここで・・・・・・生きてるんだよな」
何かを噛み締めるようにルークは言って、もう一度空を見上げた。
降ってきそうな星空の中心に、『凛々の明星』が一際強く輝いていた。
拍手お礼として桜の咲いている季節に展示していた作品です。
季節感にあわせた話を書くぞという意気込みで書いていた記憶があります。
その為時間軸なんて考えているわけもなく、本編とは全く関係のない話に仕上がってます。
深く考えずに読んでもらえたら嬉しいです。
レイヴン達が言っていた回り道とは、魔物を倒す為にルークが崩襲脚を放ったら、突っ込んだ先がちょっとした崖で、
落ちた先に魔物の集団がいた為、ルークを助ける為に大乱戦になったという・・・・・・
みたいな事があったと考えてました。
話の中に書くと長くなるからと、補足として書いてみたり・・・・・・・
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